蒼空の読書録

私が読んだ本の感想などを書いて参ります。

『天狗にさらわれた少年』

『天狗にさらわれた少年』は『仙境異聞』という江戸時代に書かれたスピリチュアル本の抄訳です。原本を読むのは言葉遣いが難しいので、現代語でちょっとだけ、どんなことが書かれているのか見てみたいという方におすすめ。全内容を知りたい方は完訳本も有ります。

 

江戸時代の国学者である平田篤胤は、神道や古代日本の神話に関する多くの著作を残しました。その中でも、最も興味深く奇妙なものが『仙境異聞』です。この本は1822年に刊行され、神仙界を訪れて呪術を身につけたと主張する少年・寅吉の話をまとめたものです。寅吉は7歳のときに山人・杉山僧正に連れられて常陸国の岩間山に行き、その後は幽冥界や外国にも旅したと主張しています。平田篤胤は寅吉の話を聞いて神仙界の存在を確信し、自身の神学体系に取り入れました。また、寅吉が描いた師仙や山神の図を平田家の家宝として祭りました。

ただし、この本には真実性について疑問が持たれる点がいくつかあります。寅吉の話は篤胤が書き留めたものであり、検証や批判がほとんどないため、信憑性には疑問が残ります。また、寅吉の話には当時流行していた天狗伝説や仙人物語、中国や西洋の地理書からの影響があるようです。さらに、寅吉自身が精神的に不安定だった可能性もあります。したがって、この本を読む際には、疑問を持ちながら読む必要があります。篤胤は寅吉を信じすぎていた可能性があると言えるかもしれません。